「名古屋の本? あまり行ったことも興味も無いし、ちょっと……」というあなたにこそ読んでほしい。著者は東京で現代思想についての執筆や社会運動を続けたのち、3・11東電福島原発事故の翌日に地元の名古屋へ避難移住をした。避難者/思想家として活動を続けている。
ついに移住先の名古屋についての本を出したが、題名は「夢見る/ユートピア」、一方で帯の推薦文には「暗黒」。名古屋は日本屈指の大都市だ。だが「非常に車道が大きく、車優先で歩行者が分断されるため、全てが無機質に作られた都市だ」、と著者は言う。名古屋が抱えるこの矛盾は、巨大都市開発の負の側面そのものだ。「名古屋の本? 無理だよ、好きじゃないんだこの街は」と言いながら、近代日本の矛盾を一地域と時代区分で明確にした本書は、日本社会が行き詰まる今、全ての人に読まれる価値がある。
本書は三部構成で、第1章は名古屋米騒動が起きた「1918 鶴舞」。翌年の都市計画法制定以降、名古屋がどう都市計画を進めたかを解明する。
20世紀前半、都市計画と帝国主義政策は密接な関係だった。東アジアを侵略して軍事強国を目指した結果、農林業労働者を激減させ、都市部の商業・工業労働者を急増させる。名古屋市も1920年から毎年1万5千人も人口が増え、市町村合併で面積は4倍に増えた。
米騒動は、急速な近代化への抗議だったが、その後名古屋の小地主や、暴動を牽引した産業労働者たちは、都市開発と産業報国会へ束ねられていく。近代化により近世的なものが崩されていくのではなく、逆に近世的なものを束ねることによって近代化が目指された名古屋を、著者は「ファシズム時代の標本」と呼ぶ。
車社会、排除社会の進展と暗黒
第2章は「1965 小牧」。戦後復興を経て、自家用車の普及と車道が無限拡大するモータリゼーションの時代だ。小牧インターチェンジはその中心となった。名神高速道路も開通した。しかし、社会の主役が人から車になることで、地域社会は人の手を離れ空洞化したことを「口裂け女」などの具体例で示していく。
第3章は「1989 世界デザイン博覧会」。名古屋市の会場も周辺も真っ白に浄化された博覧会以降、日本中で都市から野宿者などを追い出す「ジェントリフィケーション」が始まったことを見事に解明する。
最後に著者は、名古屋に移った理由の「放射能汚染問題」を本書では除外したが、今後の重要な論点だと述べる。放射能被ばくは都市を根本から存続できなくさせる。本書の延長での新たな発信に期待したい。